下駄は、底面が平らで反りも返りもしない。鼻緒で引っ掛けて地面をぎゅっと掴んで持ち運んでいるようなものだ。平らな地面が足元に常にある。これは面白い。
衝撃吸収クッションやら足裏に沿ったカーブという親切もお節介もない。履き物が介入してこない以上、身体内部の動きで路面やあらゆる環境の変化に反応しなければならない。
踵接地からプッシュオフまでが短時間で強制的に行われる。踵を着いたらすぐさま足裏全体が地面に降りてしまう。身体は取り残されないように、下駄の直上に載っかってくる。踏み返しがないので、膝を綺麗に伸ばさないと、後ろへ蹴れない。
花魁道中の高下駄の足運びは、逆8の字を描くのだが、この時の足の動きの軸は頸椎にまで上がっている。そこまでいかずとも、普通の下駄では腰高に歩くパターンになる。脊柱から骨盤にかけ大きく流麗な回旋運動が要求される。通常、脚の振り出しでは、だいたい胸椎10番あたり(鳩尾の近辺)に回旋軸の中心がある。
下駄にしてもハイヒールにしても、使いようによって、身体を研ぎ澄ませ鍛える道具になる。下駄に団扇、身体の柔軟性への回帰と言えないだろうか。暑いときは汗を流して、体温調節を働かせ、外部の環境を内部で帳尻合わせをする。
エアコンの効いた通勤電車の中にて。あ~、窓開けた~い。