ドラの帰国

大陸に渡ったドラが帰ってくると言うので、陽が昇る前にクルマを飛ばしてベイブリッジを渡り飛行場へ迎えに行った。海上の高い橋の上を走るのは、シーパラダイスのジェットコースターみたいで怖いのだが、オレンジの朝陽が正面から昇って来たときは怖さなんか忘れてしまった。それにしても電車に乗れば一本で帰ってこれるというのに、”おかあちゃんはアタシの事なんて愛してないのね!”など言われるのはかなわないので、不本意だが仕方ない。

北米大陸の真ん中あたりにある豪邸に住み込んで、双子のベビーシッターをやっていると便りをもらった。”ゴージャスな暮らしがした~い”、”ふ~ん”。”赤ちゃんが欲しい~”、”もうチョット待ちなさいよ”。そんな会話を思い出し、邸宅と赤ん坊を一挙に体験したわけで、気が済んだのではないだろうか。少なくとも赤ん坊の方は1週間でもう結構だと思ったそうだ。こちらは、かれこれ20年もつき合っている。どうしてくれよう。

小さいノラの喜びようは尋常ではなく、前の日までクマとロバに纏わりついていたくせに、見向きもせずにドラ姉ちゃんにくっ付いて離れない。ノラには手を焼いている。言うことを聞かない。子どもとはそんなものだ、と言う者がいたが、そんな事はない。嫌でも面白くなくても、親だから仕方なく聞くのだ。拾ったノラとは親子ではないのだと今更気づき、逆に親子であることの特異性に驚かされる。

どちらかと言えば、ノラはワン系、ドラはニャン系の行動様式と気質を持っている。小動物学校から帰るとすぐ、ノラは外に飛び出し近所のワン達と遊んでいる。ドラは猛獣高校を終えたので、帰国後は喜んで家に居ついて、専業主婦のようにご飯を作っている。家族をつなぐ役割を幼いときから担っているのだ。天分に違いない。

ロバは腰を伸ばす為に丹田辺りのお灸を欠かさず、伸びてはいつの間にかまた曲がりを繰り返している。トボケ加減や子ども返りなどいい塩梅で、上手いな~と唸らせられる。年の功とはこの事だ。ロバ捨山に連れて行くわよと脅すと、帰ってくるわよとやり返される。

長らくさすらいのシングルマザーであった。どうもこのごろ根づいて暮らし、母親業も終業状態のクマである。ただ魂はさすらい続けている。