<登場動物>
浦島クマ:ドイツの森から帰国して月日を経て海辺の街に根づきつつある。
ドラ:クマの娘、猛獣高校卒業後は社会経験と称して旅などして1年を費やす。
ノラ:クマの姪、ドラ姉の金魚の糞と化し、小動物学校に通う。
ロバ:クマの母、独り暮らしの所をクマたちに転がり込まれて以来同居する羽目になる。
コブラ:ドラの父、ドイツの森在住、かつてのクマの宿敵は相手がドラに代替わりして奮戦中。
オマ:コブラの母、南仏の百姓家を改築した城に住んで、昨春逝去。
雲が吹き飛ばされた朝の空に、暗紫色の富士山がくっきり浮き上がって見える。台風明けの海辺の街の空気は南の島にいるみたいだ。この頃は、ズシもカマクラも気候が沖縄化している。クマの最近の関心事の一つは、雨水を貯めることだ。庭の水撒きと称した水遊びで、ノラが水道を使い過ぎるのもあり、台風が過ぎたら断水している地区もあり、水源地が遠いこともある。ペットボトルとか給水車に頼るのではちょっと自給自足的解決策にはならない。
たこつぼトンネルが通行止めになり、海辺の街は朝から大渋滞だった。クマは自転車が足だから仕事場に行き、いつもは車に乗り換えるコースだけど、渋滞に突入する気がないので電動自転車でこなした。訪問サービスの道は山坂ばかりなのだ。自転車を充電する程度のソーラー自家発電もやりたい。断水地区では停電もしている。ちょうど冷蔵庫の中身を片付け始めている。乾物と庭に少々青物があればよいと思っている。灯りはろうそくで早寝早起きすればよい。台風も地震も来るところに住んでいるのだ。あとは、庭で焚火と煮炊きだな。。
幸い、我が家の台風ドラが家を出た。この一年何度も送り迎えした飛行場へ一家総出で見送りに行った。古巣ドイツの森で学んでくるという。連日の亜熱帯気候によりドラの思考は怪しげで、寒いところに行くのにスーツケースの中身は夏物ばかりぎゅう詰めである。意見をすると、南仏の亡くなったオマの家に最後の訪問をするから、冬物は送ってくれと言う。独り立ちしようとする娘と一緒に暮らすのは、楽ではない。船に二人のキャプテン状態でこちらの思うようになど行かないし、ドラの通るところは台風通過のごとく取っ散らかっている。
これからは、冷蔵庫にはバターと発酵しすぎないようにぬか床とノラのケチャップとロバの納豆ぐらいで、他には入れとく物はなくしてしまおう。ドラは冷蔵庫をいっぱいにするのが好きで参った。以前のように風呂桶でスイカを冷やせば適温になるし、ドイツの森にはバターを詰めた小ぶりの陶器をひっくりかえして、水を張った器に入れ保管している友だっている。洗濯機にバケツで毎朝ふろの残り湯を注ぐことが、クマの唯一の筋トレになっている。最小の努力でパフォーマンスの質を上げることを信条としているから、ドラのようにフィットネスでマシントレーニングはしない。クマが世界を放浪していたころは、お風呂に入る時、その日の衣服と一緒に入って、洗濯物を足踏みしていた。
台風上陸の前日、我が家台風ドラが去った後の残骸の跡片付けで、さすがに頭が沸騰して、海水浴に行った。防波堤内で泳いでいるつもりが、大波が引くときに一緒に持っていかれ防波堤外に出た時は焦った。力を抜いて気合いを入れて思い切り泳いだ。コブラには、ドラをとにかくサポートしてなんとか楽しくやってもらいたい、健闘を祈る、とメッセージをした。すかさず、どうなる事やら、と返答が来て、オマの家でオマにまつわる話を彼女の孫たちとしながら、彼女を偲ぶつもりだと付け加えてあった。そういえば彼女とは南仏の湖の向こう岸まで一緒に泳いだなあ。