秋になり山路を取ることにした。家の裏を登っていくと、程なく尾根道に入れる。ここはカマクラ時代からの苔むした切り通しが残っている。向こう側へ降りると仕事場への最短経路となる。朝、出会うのはヘビとクモしかいない。ヘビとはお互いにびっくりして道を譲り合って別れる。狭い通路では朝露の光るクモの網に引っかからないように、腰を屈めて歩くようにする。
暑い夏は、疾風の如く自転車で坂を転がり降りて、浜でザブッと泳いでから仕事に行った。今年の暑さはこたえて、涼しくなってホッとしたら、山が森が恋しい。素足で歩くのが気持ちよい。下駄やゾーリをバックに入れて素足で行く。
うっかり遅くなって、仕事場を出たときすでに陽は傾いてしまっていた。人家の途絶えた辺りで、森の入り口が見えてくる。中を窺うと漆黒の闇である。ちょっと躊躇する。これから戻って浜周りで帰ると、ゆうに一時間はかかる。暗がりを我慢して行けば、十数分で家につく。観念して、道端にしゃがみ込んで目を閉じる。しばらくして顔を上げて前方を見ると、仄かに行く道が浮かび上がっている。
ゾーリを脱いで素足になりヒタヒタヒタと小走りで進む。視界が利かないので足裏も目の役目で、ぬかるみや落ち葉に足を取られ谷に落ちるわけにはいかないのだ。全身が目となり耳となって進む。気分はくの一。どこからか吹き矢が飛んできてやられたら、明るくなって発見されるまで。そんなことを考えていると愉快になって、帰宅の任務に没頭する。だんだん道がよく見えるようになった頃、森から住宅地に出る。後ろは決して振り向かない。あーっこわかった~。夜の食卓で話すのも怖すぎて、黙ってご飯を食べた。
その週末、内弟子の小さなノラと探検隊を編成して、明るい同じ道を歩いた。