ティナと最後に会ったのはちょうど1年前のミュンヘン空港で、その時ティナはクマの2倍の目方だったのが、今は1,5倍に減っている。体中の痛みを抱えてインドに渡り、伝統医療の集中治療を数週間受けてきたのだった。かつてクマもティナのインド伝統医療センターで働いた事もあり、その威力について信服しているのだが、ここまでやるとは恐れ入った。相変わらず温かくパワフルなハグの歓迎を受けてから、ティナのように頑丈で大きな車に乗り込んだ。
道中、ティナはインドでの療養生活について語った。毎日トリートメントを受けるのだが、これがいわゆる経絡を強烈に刺激して相当な苦痛を伴う。もうやめてと叫ぶと、ヘイカモーン!ちょっとしっかりしなさいよ!とたしなめられる。あとは運動で、関節に痛みがあるティナはヨガはやらずにひたすら歩いた。辛かろうが疲れていようが決して休ませてはくれない。そして食事療法だ。ティナの場合は基本ヴィガーン食で、動物性タンパク質は牛乳と卵も含めて摂らない。さらにトマトとジャガイモが体質に合わないとか細かい。砂糖も抜きだが、ウェイターがチョコレートをこっそり差し入れてくれたのも断ったという。
ドクターはティナの身体と語るように診察しプログラムを立て、ティナのドイツ流論理的質問責めにも丁寧に答えた。何も聞かない者には何も説明しない。薬という物はなく、処方されるトリートメントは腕のいいセラピスト達が受け持つ。手を当てることの大切さが活きている。検査データだけによる薬物だけ盛る医療がまかり通る世界もある。やり手も受け手も疑問に思わないのだろうか。本気で病を捨て生き直そうとするならば、病を培った今までの生き方そのものを見直す必要があるに違いない。病は突然に降りかかるものではないはずだ。因果ということをインド伝統医療ではきちんと押さえている。
半島を南下する車中から、石積みの家がおぼろに見えてきた。40時間の旅で意識が朦朧としているのだが、別世界へやってきた妙な感じと不思議な親密感が同時に湧いてくる。クマのためにティナが用意してくれた素敵なベットはテラスにあって、横たわると月と星を眺めて眠りにつける。クマは小躍りしながらベットに潜り込んだ。
つづく。