その後のノラ

(登場動物)
浦島クマ:さすらいのシングルマザー、世間を知らず脳天気。
娘 ドラ:猛獣高校を卒業後、大陸へと旅立つ。
姪 ノラ:野良育ち、顔はポニョ、友達はワン。
老母ロバ:帰国後のドラクマ母娘に転がり込まれ、渋々同居。

(あらすじ)
姪のノラが親から離れて野良暮らしをしているのを、帰国後のクマとドラが拾ってから2年半。一緒に暮らすのは初めて同士、そして老母ロバも加わった家族の再構築。

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ドラがいなくなった家は、学校の先生が立ち去った直後の教室のようで、俄かに和やかになった。先生がいると、何やら恐ろしくて緊張するものだ。いないと、ほっとして力が抜け、どっと疲れが出てきた。ドラがいる時には、ドラがいてくれて本当によかったわ、嬉しいわ~と、とにかくポジティブメッセージを送らなければ、超絶不機嫌になるのだ。お互いのやり方や考え方に違いがあっても、決して相手を否定してはならない。

子どもは天からの預かりもの、成長すれば天に返すもの。ドラが生まれたときに得た啓示だった。ドラが巣立ち、何か子育てしただろうか、子育てを楽しみたかったな、と思っていると、傍らにノラがいる。そういえば、また天から預かっている。子育てと言うけれど、向こうが育つのを見守ることしかできない気がする。そうしながら、こちらが学んでいる。

小さいノラは、ドラ姉ちゃんがいないと、テレビとビデオとネットとお菓子の量が減るから嫌だな~、と1回言ったきりだ。憧れのお姉ちゃんに嫌われないように我慢もするし、お化粧もお洒落も真似するし、どこへ行くにも金魚の糞でくっついて行くし、それなりに楽じゃないのだろう。独り気ままに自転車を乗り回して、近所のワン達と遊んでいる。食卓の中心に自分が座ることもでき上機嫌だ。

ノラは野良育ちだから、愛情に飢え、鬱積して抱えているものがたくさんあるだろう。それにしても、雨降りの続いた早朝に、パンツの替えが無い!と言って、恐ろしい形相で起き抜けのクマの部屋に入ってきたりする。些細なことで、いちゃもんをつけて来る。いい加減嫌気がさして、冗談じゃあなーい、勝手にしなさーい!と一喝して振り向きもしない。すると、矛先を変えて、座り込んで歯磨きをしているロバの前に仁王立ちになり、キツネのように目をつり上げ、今日はゼッタイ帰ってこないからねー!と宣言している。ロバがぼやっと、じゃあ明日帰ってくるの?と尋ねると、明日も帰ってこないからね!とくる。ロバは辛抱強く、明後日は帰ってくる?と続けると、明後日も帰ってこないー!と叫んで出て行く。端で見ていると、滑稽で思わず吹き出す。

うっかり叱ると、存在を否定されたかのように過剰に反応するので叱れない。こういう訳だからこうして下さいとか、やってくださいお願いしますと頼むと、そのようにやってくれる。こういうときはハイと言う、この場合はゴメンナサイで、この時はアリガトウなのよ、と説明すると聞いていて、後ですらりとアリガトウ!とか言ってくる。
クマの方が、教え方を教わっているようなものだ。

ドラは生まれてからくっついて育っただけで、教えたり躾など何もしていない。ノラには教えないとどうにもならない。クマはやっと教えるということを始め、ノラはここで内弟子暮らしとなった。。