(あらすじ)
ドイツの森から帰国後3年のクマと娘のドラ。女三代4人家族で、カミオーカの街から海辺の町へと引っ越す。間もなくドラは大陸へ旅立つ事になった。
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クマはこれまでに何度もドラを見送った。赤ん坊だったドラとほとんど引き離されるような時さえあった。その時に固く心に誓った事は、ドラが自ら旅立つ日まで決して離れてはいけないということだった。クマにとってドラは、子というよりも同士に近い間柄だった。歩みを共にしてきた仲間のようなものだった。
ドラが成長して、母親に真っ向から反抗し、母親の在り方を否定するようになると、関係性は微妙になった。脳の神経回路とホルモンが爆発的に増殖中の、コントロール不能状態の生き物とつき合うのだから、並大抵のことではない。そのまま放っておいて、今は仕方あるまい、そのうち落ち着くでしょう、という態度で構えないとやっていられない。わかっていても、腹が立つし悔しくもあり鬱陶しくなってくる。子の自立と親の子離れは、どうやら生き物として自然に成り立っているようだ。
ドラの出発の支度に、クマはほとんど手を出さなかった。やることが見当たらないし、ドラが自分でやるだろう、と思ったのだ。スーツケースにキチンと整頓して詰めるのは、老母ロバの得意技で、今回もドラから依頼を受けていた。クマは幾らか餞別を渡し、ドラと大荷物と見送りの家族を、飛行場まで運ぶ役目をした。おにぎりとお茶を用意して車中のピクニック、空港でお茶をした。
別れ際にドラはポロポロ涙をこぼして、ロバが心配だと言った。春にもう一人の祖母を亡くしたばかりだからだ。ロバは、丈夫だからまだ大丈夫と笑って答えた。いつも家族を繋いでいたのがドラだった。小さいノラは、屋上の展望デッキで小雨が降る中走り回って、お姉ちゃんが見えないかと探している。望遠鏡は曇り空しか見えないから、操縦席のゲームマシーンに乗り込んで、離陸後間もなく墜落を何度も繰り返した。
ドラの飛行機が動き始めるまで遊び、軽くなった車で高速に乗って帰った。
大きな肩の荷が下りた。