<登場動物>
浦島クマ さすらいのシングルマザー。脳天気でマイペース。
ドラ クマの娘。ティーンエージャーで、壊れたオモチャ状態。
ノラ クマの姪。野良育ちで拾われ、狼に育てられた子供状態。
ウマ クマの母。馬車馬の如く生きて老い、今はスローペース。
他、コブラ ドラの父親
ゴリラ ノラの父親
南風が吹いた冬のある日、南の島へ飛び立つドラを送って飛行場に来た。ドラの通うドイツ系猛獣学校がカーニバル休暇につき、居酒屋バイトで資金を作り、ドイツからの友と現地で落ち合う。生意気だ。と言ったら、寒いときに暖かい所へ行くのは普通じゃん、と言い返された。確かに、北国ドイツの感覚だ。
久しぶりの飛行場は違和感があった。毎年ドイツの森から帰国していた頃は、旅の途中の根無し草のように、飛行場も日常生活の一部だった。日本の大地に根ざして暮らし始めたら、もうどこかに行く気がしない。根ざすことにエネルギーを費やしてしまうのだ。同じ風景も、旅で眺めるのと日常で関係を持つのでは、違う感覚で迫ってくる。クマの浦島ぶり、薄皮が剥がれてきた。
週末、ノラはゴリラのところで過ごす。このふたりやっと親子で暮らし始める準備が整うまで、クマたちで見守るしかない。いつも騒々しい家の中が、クマとウマだけで、静寂に包まれている。この機会に、整理整頓とウマの面倒でもみようと思い立った。ウマと連れだって日向ぼっこに出かける。お日様に当たるのがいけないのか、電車もカフェも世間ではブラインドなど降ろしている。日の光の中でお弁当を広げると、簡単に幸せになれる。
数日前、コブラから連絡があった。ドラからすっかりろくでなし扱いで、気の毒に思う。マイナス15°の世界で薪ストーブを焚いて暮らしている。自分で建てた家で、日光を取り入れる工夫と、ストーブで暖めた湯が床を巡り給湯器に溜まるシステムになっている。大したものだ。冬でも太陽が覗く時は、着込んで膝掛けをして、デッキでお茶を飲んでいた。